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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)7号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

本件上告理由は「昭和二二年一二月一一日午前十時の口頭弁論期日の呼出を受け上告代理人は上告人(当時の控訴人)の代理人として出廷したるに判決の言渡を受け謄本の交付を受けたり上告人は控訴審に提出すべき新規の抗弁と証拠を準備したるに判決を言渡され其証拠と抗弁の提出を不当に制限され然も言渡期日の通知なく言渡したる原裁判は違法なり」と謂うのである。

よつて案ずるに、本件記録に依れば原裁判所が当事者双方の出頭した昭和二二年一〇月二八日午前一〇時の口頭弁論期日に於て弁論を終結し判決言渡期日を同年一一月一五日午前一〇時と指定告知した所、其の後同年一一月一一日上告人から口頭弁論再開申請書の提出があつたが、原裁判所は敢て弁論の再開(弁論再開の決定)を為さずして右期日に当事者双方不出頭のまま期日を開始した上、判決言渡期日を昭和二二年一二月一一日午前一〇時と変更指定し当事者双方には右期日の口頭弁論期日呼出状を送達した。而して右変更指定された期日には当事者双方出廷の上判決の言渡を為したことが明らかである。

そこで、上告理由は既掲の如く甚だ簡単であるが之を勘案するに、其の前段は口頭弁論の再開申請をしたのに再開せずして判決の言渡を為したのは、証拠及び抗弁の提出を不当に制限したものであつて違法であるという趣旨と解される。然し閉じたる弁論の再開を命ずると否とは裁判所の専権事項であることは民事訴訟法第一三三条に依つて明らかな所であり、従つて当事者の弁論再開の申請は単に裁判所の右専権の発動を促さんとするだけのものと解すべきである。従つて一度事件が裁判を為すに熟するものと認めて弁論を終結した後に於ては、仮令当事者が弁論再開の申請を為しても裁判所が之を採用しないからとて毫も違法の処置とは云ふことを得ない。然らば此の為め上告人の所謂新規の証拠及び抗弁等の提出が出来なかつたとしても民事訴訟法第一三七条の規定に明らかなる如く裁判所は之等の提出を不当に制限したものとはならないのである。従つて此の点の上告理由は理由がない。

次に上告理由の後段は、昭和二二年一二月一一日午前一〇時の口頭弁論期日の呼出状の送達はあつたが、判決言渡期日としての呼出状の送達でないから言渡期日の通知なくして言渡された原裁判は違法であるという趣旨と解される。然し乍ら判決言渡の期日は実は口頭弁論の期日であること、換言すれば判決の言渡は口頭弁論の期日に於て為されるものであることは民事訴訟法第一四二条及び同法第一四四条第六号の規定に依つて明らかな所である。而して凡そ期日呼出状の形式に付ては民事訴訟法は格別なる定めをしていないのであり、而して上示の如く判決言渡の期日は口頭弁論の期日である以上、本件に於て所論判決言渡の期日の通知を口頭弁論期日呼出状を以つてしたことは適法であつて毫も所論の如き違法はない。従つて此の点の上告理由も亦理由がない。

以上の理由に依り、民事訴訟法第四〇一条、第九五条、第八九条に則り主文の如く判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見に依るものである。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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